まるでだれもが知っている日本のNo.1企業の歴史を読んでいるかのよう。
大企業ならではのヒト・カネ・出世争い・派閥争いのドロドロがリアルに描かれています。
読み始めてすぐにわかりますが本書はトヨタ自動車をモチーフにした小説です。
一応フィクションですしトヨタ自動車については言及されていませんが、書かれている内容はwikipediaに載っているトヨタ自動車の歴史をなぞったものになっていました。99%くらい事実であるという説もあるようなので、僕はトヨタ自動車をモチーフにしていると言っておきます。
魅力的な人物が多く読み応えのある小説になっているので、次に読む本を探している方や車好きの方におすすめです。
2分でわかる「トヨトミの野望」あらすじ
- 愛知県豊臣市に本社を構えるトヨトミ自動車社長の武田剛平は、一族経営してきたトヨトミ自動車では稀有なたたき上げの社長である
- 社長になる前の武田は、歯に衣着せぬ物言いが災いしてフィリピン・マニラに左遷されていたところ、当時の社長である豊臣新太郎に認められて本社復帰を果たす
- 本社復帰後の武田は、販売のアジア担当部長やアメリカへの単独進出の責任者として大工場を新設、物言う投資家からの妨害行為への防衛と次々に実績を積み上げ、新太郎から社長に抜擢される
- 社長就任後、新聞などのメディアや海外駐在中に築いた各国へのあらゆる人脈をフル活用して業績を伸ばしていく
- 国内シェアの取返し、中国への進出、アメリカでのピックアップトラックの販売、世界初のハイブリッドカー「プロメテウス」の発売など、売り上げを8兆円から12兆円に伸ばす
- 順調に社長業を務めていくが、武田のやり方をよく思わなくなった新太郎をはじめ豊臣家の圧力により、武田は徐々に窮地に追いやられていくのである
「トヨトミの野望」の魅力
世界を股にかけるロビイスト・堤雅也
僕はロビイストやロビー活動といったものを知りませんでしたが、本書で登場するトヨトミ自動車のロビイストである堤を通じて、その仕事のスケールの大きさに興味を持ちました。
ロビイストとはロビー活動を行う個人・集団のことで、ロビー活動とはある国の政府の政策に対して、ある個人や団体が意見を反映させるための政治活動のことです。具体例として、トヨトミ自動車がアメリカでおこなったロビー活動を紹介します。
排ガス規制が厳しくなり、アメリカでは各社ともにガソリンカーの販売台数は全販売台数の何パーセント以下にしないといけないという規制が設けられる。
従来、ハイブリッドカーはガソリンカーに含まれなかったが、新しい規制では含まれるようになり、ハイブリッドカーのプロメテウスを主力としていたトヨトミ自動車は窮地に追いやられる。
ここで力を発揮したのがロビイストである堤である。アメリカの政界とのつながりがある堤は、ロビー活動によりハイブリッドカーをガソリンカーから除外するように話をまとめ、トヨトミ自動車から膨大な報酬を受け取るのである。
仕事の実態は不明瞭ですが、その人脈やツテを武器に様々な個人・企業・国を相手に渡り歩くスケールの大きさが描かれています。
このような大きな案件は別として、一方でロビイストは成果が明確ではなく交際費などのコストも多くかかる、政治的な癒着があるのではといった社会的な信用を損なうリスクもある、などの理由から、経営者の考え方次第ですぐにコストカットの対象になってしまうのではないかと思います。
実際に、トヨトミ自動車でも社長が武田から変わってからはロビー活動の予算は削減されるといった描写もありました。
剛腕・武田
名門・豊臣家の出身ではないにもかかわらず、たたき上げで社長までのぼりつめた能力や、清濁あわせのむ性格の武田こそが本書の一番の魅力だと思います。
年商数十兆円もある日本のNo.1企業にもかかわらず内部の実情は豊臣家のいいなりで、人事も豊臣家の一声。武田はそんな会社を変えるべく奔走します。
日本だけでなく世界各国に武田を慕うキーマンを配置し、しかるべきタイミングで助けを求める。元来不正を嫌う武田ですが、会社の発展のためには多少のコストには目をつぶる。そのバランスが特に優れていることが武田の経営の原動力になっており、剛腕と呼ばれる所以ではないでしょうか。
以上です。
他にも武田を支える各社の役員など、魅力的なキャラクターが多く登場しますのでぜひ読んでみてください!
画像の出典:unDraw Created by Katerina Limpitsouni
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