サイバーエージェント藤田晋社長の自伝「渋谷ではたらく社長の告白」の要約と共感した点をまとめました。
本書の要約
生い立ち~サイバーエージェント起業準備
福井県鯖江市で生まれた藤田氏は、幼いころから仕事に打ち込む父の姿を見て、どうしてそこまで会社につくすのだろう、と疑問をもつ。
この経験から藤田氏は、「自分は平凡な人生を送るのはいやだ」、と考えるようになり、高校生の時に起業家になると決めた。
大学ではオックスプランニングセンターという広告代理店でのアルバイトを通じて、営業のいろはやベンチャー企業がどういったものかを知る。同時に、藤田氏の経営観から人生観にいたるまでの影響を与えた渡辺専務と出会う。
大学卒業後、インテリジェンスという人材派遣業を営む会社に就職するも、入社一年目にして会社を作ることを決意する。
インテリジェンスの宇野社長に話すと、インテリジェンスが50%出資することと藤田氏が社長になることを提案され、起業の準備を進めることとなった。
起業後初期
起業するといっても肝心の事業内容が決まっていなかったが、宇野社長の助言もありインターネットビジネスを行う会社にすることとなった。
インテリジェンスの同期の日高、大学院生アルバイトの石川の三人で始めたサイバーエージェントは、とにかく働いて他社製のIT商品を売りまくっていた。
しかし、利益を増やしていくためには自社製品の開発が必要だと考えた藤田氏は、元ライブドア社長の堀江貴文氏と協業して「サイバークリック」というインターネット広告を開発し、会社を成長させていく。
上場に向けて
サイバーエージェントが創立した1998年ころはインターネットバブル成長期であった。従業員数を増やしたりオフィスを移転したり大阪支社をつくったりして会社はどんどん大きくなり、上場が現実味を帯びてくる。
しかし、度重なるトラブルで上場が延期、ライバル会社が先に上場など、サイバーエージェントに試練が訪れることとなる。
中期経営計画に向けて
2000年3月24日、サイバーエージェントは晴れて上場を果たし、225億円もの資金を集める。
しかし成長していたインターネットバブルがはじけたことでインターネット株価はじりじりと下がり始め、サイバーエージェント株も同様であった。
藤田氏は2004年9月期に売上300億円、利益30億円という中期経営計画のために赤字を出してでもまずは事業を拡大することを考えていた。
しかし、売り上げはいるが赤字経営であるサイバーエージェントをみて、株主や投資家、周囲の人たちは藤田氏の経営に疑問を持ちはじめる。
また、株価が下がったことで買収の危機にも直面し、藤田氏は追い詰められてしまう。
そんなとき、上場前のある表彰式で出会った楽天の三木谷社長が救いの手を差し伸べるのである。
黒字化に向けて
三木谷社長の助けもあり、藤田氏は買収の危機を乗り越える。
そして、これまでは成長のために先行投資で赤字を計上していたが、ついに育てていた事業を収穫するかのように黒字化に向けて動き始める。
その結果、2004年9月期の決算は、売り上げ267億円、利益40億円超とし、上場後下がり続けていた株価はついに上昇し始めるのである。
「21世紀を代表する会社をつくる」という目標に向けての一歩を踏み出したのである。
本書の感想・共感した点
「ハッタリでもいいから実績を口に出し、次に会う時までに実績を作る」(p41)
達成不可能な実績を口にするのはただの嘘つきであるが、達成可能と考えている実績や目標を先に口にして取り組んでいくことは大きな原動力になる。
わたしもそうであるが、人は何かしらいいわけをしてやらないことを正当化しがちである。しかし口にすることでもう後には引けない、使命感や責任感がめばえるといった状態になり、行動を後押ししてくれるのである。
また、口に出すには目標が明確でなければならない。目標が明確になるとそれに向けた手段が明確になる。その結果、行動に移しやすくなり実績につながっていくというサイクルが生まれるのではないだろうか。
「私には大きな夢と志があります。そんな志を共有できる会社に入社しよう」(p48)
「日本では何かに情熱を傾けたり上昇志向を抱くことを「恥ずかしい」と捉えたり斜に構える傾向が強く残っている」
わたし自身も同じ経験がある。一つ目は学生時代、二つ目は社会人時代である。
学生時代、わたしは授業で理解できないことがあればそのつど先生に聞きに行った結果、試験の学年でトップの成績を取ることが多かった。
社会人時代、自身の成長と会社の発展のために社内にあるいろいろなプロジェクトに手を挙げて関わってきた。
学生・社会人時代に共通で言われたことは「意識高い系」である。
この言葉は称賛する言葉ではなく、どちらかというとネガティブな、「なに頑張っちゃってんの」というニュアンスが含まれていた。
この文化は日本人の変化を嫌う性質やチャレンジをしにくくする環境を促しており、日本の成長を抑制する原因になっているのではないかと強く感じている。
「本当にできる営業ってのはな、社内のスタッフから人気があるんだ」(p58)
「組織とは、決してひとりではできない大きなことを実現するためにある。ひとりでやろうとしないで、チームとして結果を出さなくてはならない。個人プレーに走って周りに迷惑をかけるような人は決して優秀とはいえない。」
わたしが所属している会社でも、このようなひとは多い。
組織づくりができない管理職の責任もあるが、反面教師にしてわたしが管理する立場になったときに同じことはしないようにしていく。
長時間労働の良し悪し
本書ではとにかくたくさん働く、という描写が多々でてくる。具体的には週110時間(平日に17時間、休日に12時間)である。
わたしは本人が心からたのしいと感じるのであれば長時間労働も許されるのではないかと考えている。
大半のひとは、「稼ぐこと」を目的として会社に所属しており、そのひとにとっての長時間労働は苦痛以外の何ものでもないはずである。
一方で、「働くこと」を目的として楽しんでいる人にとっての長時間労働は娯楽のようなものなのではないだろうか。
わたしはテレビゲームが好きで何時間でもプレイできるが、働くことをテレビゲームのような感覚に置き換えることができれば、何時間でも働きたいとおもうだろう。
今後、大企業に入社すれば安定する、という考えはさらに通用しなくなり、「個」で稼ぐことが求められるだろう。
そうなると、労働時間はあくまで目安の一つとなり、個人に委ねられる部分が大きくなる。
今後、「働くこと」を「テレビゲーム」に置き換えられるひとが効率的な生産時間を作り出せ、成果を大量生産できるような時代が来るのではないだろうか。
「採用力は競争力だ」(p173)
藤田氏が大学卒業後に入社したインテリジェンスは人材派遣業務を主業務としており、業界では後発であり他社との差別化がないにもかかわらず急成長を続けていた。
その理由はたったひとつで、インテリジェンスは他社と比べて明らかに優秀な社員が入社し、その社員が非常に高い士気で頑張っているからである。
このことから、ビジネスモデルではなく採用や社員の士気が競争力になっていることがわかる。
その競争力が突然なくなる(優秀な社員を失う、採用できなくなる)可能性もあるが、営業力が強いことや優秀な従業員が多いことがどれほど重要かがわかるエピソードである。
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